167470 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

ね、君が行きたいところへ行こうよ

ね、君が行きたいところへ行こうよ

***世界で一番キミの味方・・・*** 

森には、豊かに流れる川があり、たくさんの木の実を実らせる木々がありました。

そのクマは、もうどれくらいそこに住んでいたのでしょう。
自分でも忘れてしまうくらい。

けれど、その森にいつも抱きしめられ、森が自分を育ててくれたという気持ちは、心の中にいつもありました。



しかしこの森にも、人間たちの開発とやらの追い風が吹き、もってあと数年・・・そんな噂は、クマの耳にも入りました。

新しい森を探して出ていくものもいました。
そのことで森の生態系は狂い、更に森の寿命を縮めてしまうことになっても。

みな、やはり自分が大事だから。
自分を大事にしなければいけないから。
生きるために、それは誰も責めることは出来ないことです。


クマはそれでも、その森を出て行くことはしませんでした。

仲間がだんだんに離れて行き、幾つもの別れがありました。



それでも、クマにはそこを離れる気はありませんでした。









その夜、クマは川辺に寝ころび、星を眺めていました。

ふと、声がしました。
「クマさん、こんばんわ」

見ると、一羽のコトリがこちらを見ていました。

「こんばんわ」

「星を見てるの?」

「あぁ。キミは、どこから来たんだい?もうこの森にいた鳥たちは、みんな何処かへ飛び去ってしまったはずだよ。」

「クマさんのことを聞いて、会いに来たの。」

「ボクのこと?あぁ、大方、変わり者のクマだとでも誰かが話してるんだろ?」

「そんな感じに話す人もいるのかなぁ。
でも、私はただ、なんとなくクマさんに会ってみたくなって。」

「キミも変わりものだね。」

クマは笑いました。
コトリも笑いました。












「ボクはね、この森が好きなんだよ。
ただそれだけ。」

「それは、見ていてわかる!だから、森の為にここに残ってるの?」



「いや、そうじゃないよ。

ボクがここに残るのは、ボク自身のため。
森の為だなんて、ボクには何も出来ないよ。



森は、こんなボクが何をしたからって、どこにいたからって、それで変わったりするほどちっぽけじゃない。




ボクは、ボクが生きたいように生きてるだけだよ。」


クマは優しく微笑みました。




「なんとなくわかる・・・」

コトリは頷きました。





「愛してる気持ちは、一瞬一瞬の感情。
クマさんは、自分の気持ちに素直に、愛してるもののそばにいるだけ。

それが、たまたま長い時間に重なっていっただけ。

そんな感じ・・・でしょ?」






「難しいこと言うなぁ。

そんなたいそうな事じゃないけど。


ま、そうだね。

ボクはいつでも自分勝手だからね。

自分がしたいように生きてるだけ。」





クマとコトリは微笑みながら星を見上げました。





「ホントはね、クマさんは寂しくなっていないかなって、少し心配だった。
でも、なんだか安心した。


クマさんの愛情が、いつも他の誰かの気持ちを暖かくして、その暖かさがクマさんの気持ちを暖かくして・・・

なんていうのかなぁ。

先は分からないけど、クマさんはきっと幸せになれる。
そんな気がした。

あ、ごめんね。
今も幸せだよね。

ずっと幸せでいられる。
そんな気がした。」


「あはは。
そうだね。

幸せは、幸せのところに集まるものだからね。」






星がキラキラ綺麗な夜でした。




© Rakuten Group, Inc.